WeakInProgramming

Last-modified: 2011-06-03 (金) 16:15:23

「プログラミングが苦手」†

研究室配属に関して3年生20人ほどと話をしたが，少なくとも5～6人から「プログラミングが苦手」という言葉を異口同音に聞いた．それを聞くたびいつも釈然としないものを感じていた．何が釈然としないのか，ひとしきり考えたり人と議論したりした結果を書いてみたい．

以下のポイントについて順に検討する．

なぜ，「嫌い」ではなく「苦手」なのか?
なぜ，他のことではなく「プログラミングが」なのか?

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「苦手」について†

「『嫌い』ではなく『苦手』」については，最初は「『好き←→嫌い』という軸とは別に『得意←→苦手』という軸があるのでは?」とも考えたが，今は以下のように考えている．

「苦手」とは「嫌い（または，好きではない）」だけれど「しなければならない」こと．

「勉強が苦手」「数学が苦手」「英語が苦手」なども，単に「嫌い」と言わずに「苦手」と言うのは「しなければならない」から，ではないだろうか．そして，「どうせしなければならないなら，いっそ好きになりたい」という願望も込められているかも知れない．

いずれにせよ，明言を避けただけで本来は「好きではない」「嫌い」ということ，と今のところ考えている．

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「好き」「嫌い」†

「プログラミングが好き」は「プログラミングは楽しい」と言い換えてもよいだろう．同様に，「プログラミングが嫌い」は「プログラミングは苦しい」または「疲れる」と言い換えられるだろう．

そして，「同じ事柄に対して，ある人は好き，ある人は嫌いと感じる」のではなく，「ほとんどの人が好む要素，ほとんどの人が嫌う要素の両方が含まれていて，どちらに重きを置くかで答えが変わる」のではないかと思う．

楽しい要素

- 課題を解決すること・完成させること

- パズルを解く過程

-（プログラミング自身の要素ではないが）成果が役立つ・報酬が得られる

　

苦しい要素

- 誤りを許容しない厳格さ

- 詳細で多量の記述を要する

- 非直感的かつ複雑なルールの押し付け

- ルールは明確でも戦略は漠然としていて，修得には時間がかかる

- 案が浮かばず行き詰まることがよくある

-（プログラミング自身の要素ではないが）簡単な課題では有用性がない．有用な課題は複雑

「楽しい要素」にどれだけ喜びを感じるか，「苦しい要素」をどれだけ重く感じるか，で好きか嫌いかが決まる，と思われる．「楽しい要素」にどれだけ喜びを感じるかは本人の性格による部分が大きいように思う．「苦しい要素」をどれだけ重く感じるかは，いくらかは本人の性格，残りは慣れの度合いによるように思う．

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なぜ「プログラミングが」なのか?†

「コンピュータが苦手」「情報工学が苦手」「数学が苦手」「形式言語理論が苦手」といった言葉ではなく「プログラミングが苦手」という言葉が出てくることが自分には不思議で，なぜそういう言葉が出てくるのか理解できずもやもやしていた．

プログラミングというのは単なる記述テクニックであって，本当に大事なのは記述される解法（アルゴリズム）のはず．分割統治法，深さ優先探索，バックトラック，データ構造，状態遷移機械，数値計算法，ディジタル信号処理，…などなど（これらはごく一例）の理論と方法を学び，それらを使って問題を解決するのが本質的な課題であって，プログラムを記述すること自体は瑣末であるはずなのだが．*1

なぜ「プログラミングが」という言葉が出てくるのか，本当のところは言った人に聞くしかないが，いくつか理由を想像してみた．

考えられる理由：

- 各種理論と方法は修得しており，プログラミングだけが苦手（例えばデバッグ作業がわずらわしい等）（「理論と方法は修得している」と勘違いしている場合も含む）．

-「プログラミングが苦手」という言葉に「情報工学の各種の理論と方法を修得してそれをアルゴリズムとして結実させることが苦手」という意味が込められている．

- 何が本質か理解していない．プログラムの作成が一番大事だと思っている（あるいはほかは就職に関係ないと思っている）．

- 学問が苦手なのは不思議ではないが，単なるテクニックであるプログラミングが苦手であることには自分自身不満を持っている．

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「できて当たり前」†

「プログラミングが苦手」という言葉が釈然としないのは，一つは上記のように「プログラミングは本質ではない」からだが，もう一つは「（情報系の大学生なら）プログラミングはできて当たり前」だと思うからだ（「情報系の」と付ける必要もないかも知れない）．

「プログラミングができない」というのは以下のような事柄ができないと言っているのと同じ，と自分には思える．

- 考えを正確に文章化（外在化）すること

- 論理的思考

- 問題の理解，手に負える小問題への分解

- マニュアル等の活用

これらができない人には卒業研究を行って卒業論文を書くことなど無理に思える（プログラミングにおいて要求されるこれらのことよりも，研究において要求されるこれらのことの方がよほどハイレベルと思える）．つまり，「プログラミングごときは必要になればできて当たり前」「できないならば大学を卒業するだけの能力（というか適性）がない」．

「できて当たり前」のことを臆面もなく「苦手」などと言っていてよいのだろうか? というのが釈然としない原因であるように思う．

もちろん，プログラミングが「苦手」でも「嫌い」でも「必要になればやるし，できる」のであれば問題ない（某先生なら1時間でできるものが1週間かかろうとも，その上できあがりの質が悪かろうとも）．

「プログラミングが苦手」という言葉の真意が「『できて当たり前』なのは承知しているし，必要になれば自力でなんとかする覚悟もあるが，本音を言えば苦手」という意味ならば，まぁ許されると思う（あまり簡単には言ってほしくないが）．そうでなく，「『プログラミングが苦手』と言えばプログラミングができなくても許される」と思っているのなら，その人は大学生ではないと見なされるだろう（少なくとも僕からは）．

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結論†

「『プログラミングが苦手』という言葉は釈然としない」ということを言うために，どうして釈然としないかの説明を試みた，というのがこの文章の趣旨である．「プログラミング」という言葉の解釈が違う可能性もあり得るし，研究室の学生と今後そういう議論をしたいと思っている．

いずれにせよ，ほかに説明なく単に「プログラミングが苦手」と言うと，

本質的なことと瑣末との区別が付いていない
文章化や論理的思考の能力が不足している

と受け取られかねないので注意が必要と思う．「好きではないが，やればできる（難しくはない）」ならよいと思う．

（「プログラミングが嫌い」に続く．）

*1 卒業研究の際にも学生にしつこく言うことがあるが，新しい技術を提案する研究では「解法を明確に曖昧さなく述べる（それを読めば誰でも実現できるように）」のが大事な点で，実際にプログラム化することは本質的ではない．その技術が有用であることを実証するために，実際に動作するプログラムが必要な場合も多くあるが，その場合でも，プログラムは有用性を示すための手段に過ぎない．