§7 群・環・体
[B] 半群・単位的半群・群
[C] 環と体
【今日の要点と補足】
集合とその上で定義されている2項演算が与えられたとき,2項演算が結合法則を満たしていれば『半群』という。結合法則を満たさないような演算も定義できるが,そのような演算は代数学的にはあまり重要でないと考えてよい。
単位元をもつ半群を『単位的半群』であるという。単位元が存在するならそれはただ一つである。
すべての要素が可逆元である(逆元をもつ)単位的半群を『群』という。
“群論”という本の最初には次のように説明されている。
「群は18世紀末,方程式の根の置換のなす体系としてとらえられ,その後,Abel,Cauchy,Galoisなどにより群と方程式の関係が解明された。19世紀中頃,Cayley,Kroneckerにより置換群の抽象化が行われ,現代の代数学の基礎づけとなった。その結果置換群,運動群などの各方面に群の考え方が適用できるようになり,群の理論は数学的に事象を処理する上で不可欠なものの1つとなった。」
この文章を読んで群の重要性を理解せよといっても無理だろうが,講義ノートの§1に出てきたAbel とか Galoisの名前を思い出して,とりあえずは「なるほど!」ということにしておこう。
半群・単位的半群・群はひとつの2項演算が与えられたときの話であったが,我々がよく知っている整数とか実数という数の世界では,加法と乗法という基本的なふたつの演算が定義されている。そこで,加法に関して可換群であり,乗法に対して単位的半群であり,加法と乗法に関する分配法則が成立するとき,この代数系を『環』という。さらに,加法の単位元である 0 以外の任意の要素が乗法に関して可逆元であるとき,これを『体』という。
整数環,実数体,複素数体という言葉を覚えておこう。整数の集合は(可換)環であり,実数の集合および複素数の集合はいずれも(可換)体だという意味である。
【言いたい放題】
今回もまた『今日のQuiz』はなかった。単に出席を確認するという意味で,いつもの用紙に何か書いてもらうことにした。いくつかのコメントに返事を書くことにする。ただし以下は順不同(順序に意味はないということ)である。
「授業中にもう少し具体的な演習(あるいは例題)をやってほしいです」
「新しいことを習ったら,今回のように問題をやってもらえるとよく分かります」
確かに具体的な演習をもっとやればいいのですが,時間がありません。それで,自習ができるように講義ノートの中に練習問題を入れてあります。また,その数が少ないのでそれとは別に演習問題を配付しています。それらの問題を自分一人の力で解いてみてください。とにかくやってみることです。解けなければ質問しましょう。友達に聞きましょう。講義ノートを何度も読んでみましょう。授業中に取ったメモを読み直して,何の話だったかを思い出しましょう。とにかく考えてみてください。授業中に説明されることを期待しないでください。受け身になってはいけません。
「講義ノートがちょっと難しく書かれていて,予習するときに理解しづらいです」
その通りです。このような文章を読みこなす訓練をしてください。小説とかでは読者がその文章を読んでどのように感じるかはある程度は自由です。ところが,数学に限らず理系の文章では,読む人によって解釈が違うと困ります。そのためにどうしても硬い文章になってしまいます。
例えば,数字が 2,4,7,11,11,25,33,40 ... と並んでいるとき,値の小さい順に並んでいると言います。でも 11がふたつあるので,本当に小さい順でしょうか。値が小さいか等しい順に並んでいる...と言うのもどこか変です。そこで厳密には,同じ値が並ぶことも考えて“減少しない順”とか“非減少順”という言い方をします。“減少しない”=“増加または等しい”というわけです。
この例のような独特の用語を使うということ以外にも,読みづらい原因はいろいろあります。でも,今までの授業の予習と復習を毎回みっちりやってきたのなら,少しは慣れたのではないでしょうか。[まだ無理かな?]
「先生が書く“し”がどう見ても“こ”に見えるので区別しにくいです」
はい,その通りです。いつの頃からか“し”の上に点を付ける癖がついてしまいました。その点が点というにはあまりにも長いため“こ”に見えてしまいます。書きながら私も分かっているのですが...。教訓:悪い癖は若いうちに直しておきましょう。
「一週間の食事メニューを教えてください」
いい加減なものしか食べていないので,恥ずかしくてお教えできません。しかし,若い学生諸君は毎日しっかり栄養のあるものを食べるように心がけてください。
「シティーハンター最高!! 全巻を集めよう」
.....。私には意味不明です。
「中間テスト難しかったです」
それで,これではいけないと考えた諸君が多かったのでしょうか,今日はなかなか出席率がよかったように感じました。
「テストがああいう形でくるとは...,予想してなかったです」
予想を裏切ってゴメンナサイ。
「テストに授業で詳しくやっていないのがあって難しかった」
授業のときにやるのは全体の3分の1(30H)だけです。残りの3分の2(60H)は自分で学修してください。なお,高知工科大学では1H=45分です。講義ノートp.7 『勉強の方法』の (2) をもう一度よく読んでください。
「合格ラインってどれくらいですか」
100点満点の60点が合格ラインです。今回は50点満点でしたから,30点以下の場合は,期末試験では今回以上の点が取れないと合格しません。
「授業がだんだん難しくなってきた」
はい,その通りです。頑張りましょう。
「関数 f(x)=x2+2x は単射ですか,全射ですか」
この関数の始集合が何で終集合が何かによって答えは違ってきます。
もし fが実数の集合から実数の集合への関数であるなら,これは単射でも全射でもありません。なぜなら,f(0)=f(-2)=0 なので,終集合の要素 0 の逆像は {0, -2} となり単射ではありません。また,f(x)=-2 となるような始集合の要素 xは存在しないので全射でもないことになります。
一方,fの始集合と終集合がともに正の実数の集合であると考えましょう。この式で,任意の正の実数 x に対して正の実数 x2+2x を対応づけているので f は関数です。そしてこの場合は全単射になります。
「最近,証明問題が多くてお手上げです」
「証明は苦手です」
お手上げの人はこの科目の単位をあきらめましょう。苦手な人はそれを克服してください。克服できなければサヨウナラです。(この回答はちょっと乱暴で,教育者としては落第ですね。)
多くの人は,高校時代にあまり証明問題をやってきていないようです。苦手意識があることは分かりますが,だからといって逃げないでください。『証明せよ』と言われると身構えてしまいますが,これを『相手を納得させよ』と読み替えてみてください。数学的な記号や用語を使うことにはなりますが,『なぜそうなるのかを他人に納得させること』が『証明』です。そう考えれば,『A=B』であることを証明するときに,最初にA=B と書いたのではダメだということも分かりますね。
これから大学を卒業して社会へ出ていったらこういう場面は日常的なものになるでしょう。会社で何か新しいことを提案する場面を考えましょう。それが会社にとって利益になるかどうかを説明し,上司に納得させる必要があります。「何となくそうなると思います」とか「ある本に書いてありました」だけでは不十分です。どの部分は真実(客観的なデータなど)であり,どの部分は仮定(あるいは予測)であるかなどをはっきりさせた上で,どういう論理(結論を導く筋道,あるいは考え方)を使えば,どんな結論(つまり提案)が出てくるのかを納得させないといけないわけです。
これに対して,上司から教えられたことだけをやっておればよい,というのであればこんな楽なことはありません。ふたつの正整数の最大公約数を計算する方法と,循環小数を分数に直す方法だけを知っていれば初等代数学の単位がもらえるとすれば,こんな楽なことはないのと同様です。
「3桁ずつに区切って,下から奇数番目と偶数番目に分けた和の差が7の倍数だと7で割り切れるらしい」
いやー,これは初耳でした。例えば,1234569 なら,3桁ずつに分けて1,234,569 と考え,(1+569)−234=336 となります。この 336 は 7 で割り切れるので元の数 1234569 は 7 の倍数だということです。
これは次のように説明できます。まず3桁ごとに区切るというのは,任意の整数を次のように考えるということです。ここで,x0,x1,x2,... はすべて3桁以下の整数です。
x0+103x1+106x2+109x3+1012x4+...
そして,奇数番目と偶数番目に分けた和の差を考えるのですから,上の式を次のように変形します。
x0+103x1+106x2+109x3+1012x4+...
=(x0+x2+x4+...)+(106−1)x2+(1012−1)x4+... −(x1+x3+...)+(103+1)x1+(109+1)x3+...
=(x0+x2+x4+...)−(x1+x3+...)+(106−1)x2+(1012−1)x4+... +(103+1)x1+(109+1)x3+...
あとは,任意の自然数 n に対して 106n−1 と 106n+3+1 はともに 7 の倍数になることを証明すればいいわけです。もちろんこの部分は数学的帰納法で簡単に証明できます。
この方法はちょっと暗算でやるには桁数が大きいけれど,全体を 7 で割ってみるよりは簡単に確かめられます。私も一つ賢くなりました。濱野司君,ありがとう。