§6 関数と関係
[A] 関数
【今日の要点と補足】
関数を定義するときには,その始集合と終集合が何であるかをはっきりさせておかなければならない。始集合に属するすべての要素 x に対して,関数 f は終集合に属する要素 f(x) をひとつだけ対応させる法則である。
f(x) を x の像という。逆に,終集合の要素 y に対して,f(x)=y であるような始集合の要素 x を集めた集合を y の逆像という。像 f(x) はひとつの要素であるが,逆像は集合であることに注意せよ。
今日の講義の要点は全射と単射につきる。
始集合のすべての要素の像の集合を関数 f の値域という。値域と終集合が一致しているとき,関数 f は『全射』であるという。別の言い方をすれば,終集合の任意の要素 y に対して,y=f(x) となる x が始集合に含まれるとき f は全射である。また,要素間に矢印をつけて関数の対応を表現するときは,終集合のすべての要素に矢印が少なくとも1本は入ってくるとき,全射であるということになる。
終集合の任意の要素 b に対してその逆像の濃度が0または1のとき,関数 f は『単射』であるという。(講義ノートでは,値域の任意の要素の逆像がひとつだけの要素を含むとき...という表現になっているが,同じことである。つまり,逆像が空集合ではない要素を集めた集合が値域なので,値域の要素の逆像は濃度が0になることはない。)別の言い方をすれば,f(x)=f(y) ならば x=y という性質があるとき,f は単射である。また,要素間に矢印をつけて関数の対応を表現するときは,終集合のすべての要素に矢印が1本または0本しか入ってこないとき,単射であるということになる。
全射でありかつ単射である関数は全単射であるという。
関数が全射であるかあるいは単射であるかを調べるときには,次のようにすればうまくいく場合が多い。
まず始集合や終集合が有限集合でありしかも図示できるくらいの個数なら,左に始集合,右に終集合を小さなマルで表示して,始集合の各要素から対応する終集合の要素へ矢印を引く。対象となる集合が無限集合でも,自然数の集合あるいは整数の集合の場合は,上記の方法で関数を図示すれば全体の対応はおよそ見当がつく。
対象となる集合が実数の集合のときには,上記のような方法で考えることはできない。この場合には直交座標を用いてグラフ表示するのが一般的である。
【今日の Quiz】
次の関数が全射であるかどうか,また単射であるかどうかを調べよ。
f(x)=2x+1,f:Z→Z
g(x)=x3,g:R→R
h(x)=sin x,h:R→R
[1] f は『単射であるが,全射ではない』
左側に,-2,-1,0,1,2,3 の6個程度の名前を付けた小さなマルを書き,それぞれから右側の像の値に矢印を引いてみるといい。f(-2)=-3,f(-1)=-1,f(0)=1,f(1)=3,f(2)=5,f(3)=7 となる。右側の数で2ヶ所以上から矢印が入ってくる気配はない。従って単射である。また,右側の偶数のところには矢印は入ってこないので,全射ではないことも分かる。
厳密な単射の証明:2x+1=2y+1 とすれば x=y が導かれることから単射である。
[2] g は『全射であり,かつ単射である。すなわち,全単射である』
y=x3 のグラフを書くとよく分かる。
全射の証明:任意の実数 y に対して y の3乗根(y1/3)を x とおけば,x は実数であり,その3乗が y であるから,任意の実数は関数 g の値域に属すことが分かる。
単射の証明:x3=y3 という式を未知数 x についての方程式として解いてみる。
0=x3−y3
=(x−y)(x2+xy+y2)
=(x−y){(x+[1/2]y)2+
[3/4]y2}
となる。従って,最終式の第1因子 x−y が 0 になることから x=y が導かれるが,x と y が実数なので第2因子は x=y=0 のとき以外は 0 にはならない。すなわち,x3=y3 ならば x=y である。
[3] h は『全射ではないし,単射でもない』
例えば,sin x=2 となる実数 x は存在しないので全射ではない。
例えば,sin 0=sin 2π=0 なので,実数 0 の逆像の濃度は2以上であり,単射ではない。(実際は sin x=0 となる実数 x は無限個ある。)
【質問のある人集合!】
11月2日(金) の午前9時半から10時半まで,A107教室(の予定)で質問を受け付けます。中間試験の勉強をしていて分からないところが出てきたら,この時間に質問に来てください。