メンバー/y-takata/数学ガール
『数学ガール』†
結城浩著，ソフトバンククリエイティブ(2007). http://www.hyuki.com/girl/
思ったよりよかった。
5年も前の本を今ごろ何? という気もするけど。
前から気にはなっていたのだけど，痛い本だったらどうしよう? と思って…（図書館にあるのだから借りてみればよかったのだけど，「図書館にあるかも」という考えがなぜか思いつかなかった。ここの図書館の話題本の充実を思えば，ないはずないですね…）。何度目かの「よし，買って読むゾ」という波が訪れてようやく。
買ったのは第1巻『数学ガール』と第3巻『ゲーデルの不完全性定理』。（記号論理学の輪講をしたのがきっかけで）3巻の方が読んでみたくて，でもまぁ第1作も読まなければ良し悪しは判断できまいと思って1巻も（映画でも何でもシリーズ第1作が一番よいってことはよくあるじゃないですか）。
小説だと思って読むには正直，素人作品の域は出ないかな，と思うけど。登場人物（ミルカと「僕」）もあまり好みでないし（アリスとナルミの方が…←それは関係ない）。
ではなくて，昔からある「教師と生徒の対話」形式の数学書（例えば こういうの）の一種だと思えば，非常によくできた本だと思う。コメディやロマンス風のところは箸休めとかご愛嬌と思えばよいかなと。実際それらの割合はおまけ程度だしね。
数学書だけど，普通の数学書のように何か数学上の事実を解説するのが目的ではなくて，「問題から解に至るまでの『冒険』」を登場人物と一緒に楽しんでもらおう，それによって数学のおもしろさを知ってもらおう，という本，だと思う。その目的は，中高生や大学生に数学を「小難しくてあまり関わりたくない存在」ではなく「楽しむべき存在」だと思ってもらいたい，「素養として身につけなければならない」というような説教調で拒否反応を起こされないように，ということでしょう。
一番の重要点は，数学の楽しさを伝えることに目的を絞っていることだと思う。「楽しさを伝える目的に合えば，扱うテーマは何でもよい」というところはよい着眼だと思うし，教養書・解説書ってすぐ説教くさくなりがちだと思うのだけどそうならないように書かれているのはほんとすごいと思う（「僕」が説教くさいことを言う箇所も多少あるけどね）。
中高生にもわかるような表現の工夫もたくさんある。一番感心したのは「知らないふりゲーム」という命名（第3巻）。自分の数学の知識を一旦脇にのけておいて，与えられた規則（公理と推論規則）だけを使って解を導く（証明を構築する）こと。この命名はうまいなぁ。
個人的には，TeX + Eulerフォントによる美しい組版も非常に高ポイント！*1（こういう評価はちょっとマニアック? でも組版て重要だと思うけどなぁ。）CMフォントでもよい本であることには変わりなかったと思うけど，フォントでさらに味わいが増した感じ。たぶん判型（紙の大きさ）や紙質もよく考えて選んであると思う。
読んだ後の最大の疑問は「はたして高校生や大学生には受けるのか?」なのだけど。
そう思って，とりあえず1巻と3巻を研究室の本棚に置いてみた。ま，本来の主対象は高校生から大学1, 2年生くらいだと思うし，3, 4年生や院生と1, 2年生ではだいぶ意見が違うだろうけど。
1巻だと調和級数とかシグマ関数とか，3巻だと命題論理・述語論理とかε-δ論法とか対角線論法とか，大学生的教養として知っておくべきではと思うトピックも出てくるし，こういう「押しつけがましくない本」で無意識に学んでくれれば大歓迎だなぁ，と思うのだけど（と言ってしまうと「押しつけがましい」わけだけど）。
余談：今もまだ漫画版には手を出す気にならず…。内容的に「漫画の方がよりよい」とは思えないし。