メンバー/y-takata/LabReports
実験レポート モデル案†
課題例）カラー画像をモノクローム化するプログラムを作りなさい。
- モデル案 short ver.:
mono-short.pdf
- 2年生向けを想定。
- 「何を明らかにするのか（目的）→ 方法 → 結果 → 考察（結論）」という本筋に絞って練習することを意図している。
- モデル案 full ver.:
mono-full.pdf
- 3年生向けを想定。
- 実験テーマの背景や重要性について調査して述べること，最後にまとめを述べること，が主なちがい。結果の分析や考察も，2年生よりは深く踏み込む。
- LaTeXソースファイル
- mono-short.tex - short ver.
- mono-full.tex - long ver.
- kut-short-rep.sty - スタイルファイル
- 学士学位論文梗概のスタイルを基にしている。
- 枚数が少ない方が，プリンタ待ち時間も減るし，何人分も読む側には心理的に楽と思われる。ただし，Overfull / Underfull は出やすくなる。
- list.tex - プログラムソースコードを組版する
普通に書けば20行程度でできるプログラムを，わざわざ3クラスに分けたりドキュメンテーションコメントを書いたりしているのは，工夫点としてレポートに書く事柄を増やすためでもあるし，「簡単な問題をわざわざ難しく解く」というジョークのつもりでもある。別に真似する必要はない。
「プログラミング課題としてはつまらないので，実際のレポート課題としては出題されないだろう」と思って選んだ。こんな課題でも書くことはいろいろ見つけられるし，時間もかかる。プログラム作成30分，レポート作成15時間，といったところ。「ここまで書けてたら花マル」くらいのつもりでは書いたが，実験に使う入力画像が少ないし風景ばかりだとか，出力に差がないことを言うなら出力画像同士の差分を取ってみせた方がよいとか，粗はたくさんある。このモデル案に対して「より説得力を増すにはどういう実験をすればよいか，それはどのくらい時間を掛ければできるか」といったことを考えるのも練習になると思う。
プログラミング課題における「実験の目的」をどう設定するかは，以降のメモを参照。「プログラムを作ることで何かを示す」（例えば「モノクローム化を現実に行えることを示す」）という形式が，研究論文を書く練習としてはよいのではないか，と考えている。
実験レポートに関するメモ†
- 実験レポートは日記じゃない！
- 個人的意見や感想を書く文書ではない。
○○が難しかった．
○○という部分をあまり理解できていないので，理解していくことがこれから必要だと考える．
これらの課題に取り組み，…コンピュータの仕組みを体感できた．また…ポインタの仕組みがよくわかった．
- 「学習が目的」と定義してしまうと，結論が上記のような文章になってしまうのか?
- Lobban, C.S. & Schefter M. "Successful Lab Reports: A Manual for Science Students," Cambridge University Press (1992). (邦訳『実験レポート作成法』畠山, 大森 訳, 丸善出版, 2011)
さて，実験の目的であるが，間違っても，「○○の技術を学ぶため」とか「○○や△△の測定方法を学ぶため」といったように書いてはならない。たとえ先生としては，そういった教育目的をもって学生に実験をさせているのだとしても，実験レポートではそのように書いてはならない。というのも，あなたはシラバスを書いているのではなく，あくまでも実験レポートを書いているのであるからだ。
――『実験レポート作成法』p.13.
実験の目的 = 仮説の検証†
仮説とは何か。仮説とは，検証可能な形で，しかも自然について形式的に述べた命題のことである。具体例を挙げると，「呼吸数は温度の影響を受ける（あるいは，呼吸数は温度の関数である）」といったものがそうである。こういった仮説に対し，それとは逆の命題を帰無仮説と呼ぶが，上の仮説だと，帰無仮説は「呼吸数は温度の関数ではない」となる。… 仮説はガッチガチの形で書く必要はないが，何を問題にしているのかを明確に書かないといけない。そして，その問題をどう解決したのか，それを考察のセクションでちゃんと書く必要がある。
… 実験マニュアルを読んでも，そして先生の言ったことばを振り返っても，仮説となるものが仮に見つからなくても，でも，仮説は必ずあるものだ。… 仮説を立てないで実験をするなんていうことはあり得ないし，実験とは，そもそも，仮説と帰無仮説のどちらを支持するのか，その裏付けデータを集めるためにするものである。… 問題をちゃんと理解しないで実験をしているようでは，与えられた課題について自分は何もわかっていないことを先生にアピールしているようなものである。
――『実験レポート作成法』pp.8―10.
もちろん，上の文章は自然科学（物理学，化学，生物学，etc.）の実験について述べている。自然科学の実験レポートのイントロダクションは下記のような内容と思われる。
- 実験テーマの背景
- そのテーマにはどんな重要性があるか。
- これまでにどのようなことが知られているか。
- 実験の目的
- この実験で検証する仮説。つまり，この実験によって何が明らかになるのか。
- 実験の内容
- どんな方法が知られていて，今回はどんな方法を選んだのか。なぜその方法が適切なのか。
イントロダクションの後は，「実験方法」「実験結果（観測された事実）」「考察（実験結果を基に仮説の検証を試みる）」と続く。
「目的 → 方法 → 結果 → 考察」の部分は実験そのものの描写，いわば「実験の記録」（単に書き留めたものではなくて，整理して一貫性のあるものに再構成したもの），背景は「実験テーマについて理解を深めるために書かせる（調べごとをさせる）もの」，と考えるとよいように思う。
プログラミング課題の場合は?†
「実験レポートは研究論文を書くための練習」という視点で見ると，上記のような「検証すべき仮説，その仮説の背景，検証の方法，…」という流れでレポートを書かせるのは，情報工学の分野でも適しているように思う。
しかし，以下のような課題において「検証すべき仮説」とは何なのか，（学生だけでなく教員から見ても）疑問がわく。
12356秒が何時間何分何秒に当たるか計算して表示するプログラムを作りなさい。 (2013年度実験2 課題1.2)
こういう課題だと，「目的はプログラミングの学習のため」と書くのも仕方ないように思える。
プログラミング課題の目的を「仮説の検証」にするためにはどうすればよいか?
提案・開発型の研究論文を考えると，プログラミングは手段であって，作ったプログラムによって何かを便利にしたり，新しい知見を得たりするのが目的と言える。「従来よりも便利になる」「従来よりも効率的になる」などが仮説であり，実際にプログラムを設計・実装し，それを使ってその仮説を確かめることが研究の目的と言えるだろう*1。
プログラミング課題の場合も，「プログラムを書くための課題」ではなく「何かを行うためにそれに必要なプログラムを設計・実装する」という課題にすれば，実験レポートらしいレポートが書けるようになるのではないだろうか。
課題例) 指定した特性を持つディジタル低域通過フィルタを作成しなさい。
（検証すべき仮説は「低域通過フィルタによってカットオフ周波数より高い周波数の成分が抑制された波形が得られる」）
上記の課題に対する実験レポートは以下のような内容になるだろう。
- イントロダクション
- ディジタルフィルタの必要性や種類
- 実験の目的（検証すべき仮説）
- 実験内容
- フィルタプログラムの設計
- 仮説を検証するための実験方法
- 実験結果
- 得られた出力波形など
- 考察
- 仮説の検証
- 出力波形を目で見るだけでなく，ほかの検証方法も検討していればなおよい。
- 仮説の検証
別の方法：設計文書としての実験レポート†
プログラミング課題に対し，設計文書をレポートとして提出させる，という考え方もある。つまり，研究論文を書く練習と言うより，ソフトウェア工学的な文書を書く練習，という立場。
- 参考：『プログラミング演習 セメスタ課題報告書の書き方』*2
- ただし，「評価」「考察・まとめ」の項目は，設計文書と言うよりも研究論文的。